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飲食店から出て来たカップルが乗り込んできた。行き先を聞くとすぐ女性の方が,
「あ、運転手さん秋田の人じゃないんですか」と聞いてきた、

どうやらこのカップル女性の方がポジティブな感じ、バックミラーでようすを覗う、二人とも
まだ二十歳少しまえぐらいかな、

「うん、都落ちして来たんだよ」
「えっ、ああ、東京からなんですか」

「うん、生まれたのは秋田なんだけど、五歳の時、中国へ行き終戦で、
秋田へ帰り中卒、すぐ、東京行って、それからちょうど五十年、半世紀東京住いしましたよ」
「へえぇ、いろいろあったんだ、東京でもタクシーだったんですか?」

「いや東京では、タクシーは若いころ三年ぐらいかな、あとはいろいろやりましたよ、話すと長くなるけど」
「ふうーん、やっぱし東京の人はアクセントも歯切れもいいですよね」と、二人でしきりに感心している。

「いや、実はね、こっちへ来た時秋田人になりきろうと思って、秋田弁をやってみたんですよ、そしたら(ドラマの東北弁)だって笑われてしまったのでやめることにしたんですよ」

「えっ、ドラマの東北弁ってどんなのですか」と聞かれて一瞬どう説明しようか迷ったが、「ほら美空ひばりの(りんご追分)って唄があるでしょう」と言うと、ややしばらく遅れて「知らない、だって聞いたことないもん」と言われ、今度は僕のほうがえっと言葉を失ってしまう。

 改めてバックミラー越しにお客さんをしみじみ観察してしまった。
 やがて、目的地に着いたことを告げるとびっくりする程明るい声で、「ありがとうございました」と、近頃の若者にしては珍しく礼儀正しい挨拶をして降りていった。
 彼らの手をつないで立ち去る後ろ姿を見ながら、ふうっとひと息ついて、少しせつない気持ちになってしまった。もう、あの美空ひばりを知らない年代の人達がいるんだ。

 僕らの年代にとって「美空ひばり」は青春時代の憧れの姫であったし、青春そのものでもあった。
 又、彼女の唄の年譜が、其の侭、僕自身のアーカイブスの一頁にもなっているのだ。
 負の想いでになるのだが僕には、あの「東京キッド」という唄には特別な思い入れがある。
 



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